第33章 【決別】
「さて、まずはここから始めんとな――シリウス、元の姿に戻っておくれ」
ダンブルドアがそう言うと、ハリーの傍らにいた黒い大きな犬が変身を解き、ホグズミードで会った時と同じ薄汚れたローブを着たシリウスの姿に戻った。
それを目の当たりにしたマクゴナガル先生を初め、マダム・ポンフリー、ウィーズリー夫人、そしてスネイプが驚きと嫌悪感を持ってシリウスを見つめた。
「貴様!何故ここに!!?」
「わしが呼んだんじゃ、セブルス。さあ、お互い昔の事は水に流し、手を取り合うべき時じゃ」
しかしシリウスとスネイプは睨み合ったまま、動こうとしない。お互い憎しみで腸が煮えくり返らんばかりだ。2人の間の空気は、凄まじい憎悪で暗く歪んで見えるほどだった。そんな状況下で口を挟める者はおらず、ダンブルドアは大きくため息を吐いた。
「なにも心の底から信頼しろとは言わん。だが我々は結束して事に努めなければならん。その最初の一歩として、握手から始めてくれんか?」
握手――お互い同じ空気を吸う事すら拒んでいる者同士が、友好的挨拶など出来るだろうか。しかし2人はもう駄々をこねるだけの子供ではない。
お互い眼だけは獲物を狙う肉食獣の様に、ギラギラと光りながらも、ゆっくりと、だが確実に一歩ずつ前に進み、握手をした。――その刹那、静電気に襲われた様にお互い勢いよく手を離した。
「まあ、今のところはここで仕舞にしよう」
「「フンッ」」
仲は悪いが息が合っているのか、2人は鼻息もあらく同時にそっぽを向いて距離を取った。
それからダンブルドアは2人に指示を出した。シリウスには昔の仲間に連絡を取るよう。それから暫くはルーピン先生の所に身を潜めている様。そしてスネイプには訳の分からない指示――と、言うよりお願い事――をした。
「セブルス、君に頼みたい事は――もう分かっているだろうが、もしやってくれるのなら……」
「……お任せを」
それだけ言うと、スネイプは医務室を出て行った。恐らくダンブルドアの指示を行う為か、もしくはシリウスと同じ空気を吸っている事に限界が来たのか。どちらか分からなかったが、いつもより顔色を悪くしたスネイプはマントを翻し部屋を出て行ったのだった。