第33章 【決別】
スネイプの言葉には、まるで杖を突きつけた時のような鋭さがあった。ファッジは袋小路に追い詰められた小悪党の様にたじたじと後ずさりをした。
その場に居た全員の視線が、ファッジに注がれている。ファッジは頭を振ると、あさっての方を見ながらうわ言のようにつぶやいた。
「先生達もダンブルドアもお疲れの様だ。私はまだ仕事が残っているので帰らせてもらう。ダンブルドア、この先の学校の方針についてはまた後日話そう。ではな……」
身を屈めてコソコソと逃げる様にして医務室を出て行こうとしたファッジだったが、出入り口を前にピタリと止まると、踵を返してハリーの横たわるベッドに近づいていった。
「君への賞金だ。1千ガリオンある。授賞式を執り行う予定だったが、今の状況では――」
それでけ言い残すと、ファッジは山高帽を目深にかぶり、早足で医務室を横切り出て行ってしまった。
もう魔法省は当てに出来ない。信じられるのは――そこでクリスは意識が停止した。本当に信じていいのか?『例のあの人』の、いや、ヴォルデモートの実の娘である自分が、ここに居て良いのか。クリスは急に不安に駆られた。
『 お前なんて 産まれてこなければ良かったのに 』
あの言葉が頭をめぐる。途端に吐き気と頭痛が襲ってきて、クリスは口を両手で押さえた。すると傍に居てくれたハーマイオニーが、心配そうに背中をさすってくれた。
だが、ハーマイオニーの優しさが今は1番辛かった。この躰には、大量のマグルを殺した殺人鬼の血が流れている。そう思うだけで身が引き裂かれる様な気分だった。
ダンブルドアはクリスの肩から手を離さずウィーズリー夫人に訊ねた。
「モリー、貴女とご主人は信頼できると考えていいかね?」
「もちろんですわ。この子達を守る為なら、何でもします」
「有難い、ではひとまずクリスを夏休みの初めだけ匿ってやってくれないか?その内きちんとしたアジトを探す。それからアーサーに伝言を送って欲しい。出来るだけ早くじゃ。魔の手は刻一刻と迫っておるのでな」
「僕が行きます。用意が出来次第すぐ出発します!」
ロンの1番上の兄、ビルがすぐさま立ちあがってマントを羽織った。それから励ます様にハリーとロンの肩を叩くと、母親の頬にキスをして颯爽と医務室を出て行った。