第32章 【幕引き】
ダンブルドアはトランクから本物のムーディを抱きかかえて床に寝かせると、その場にあったローブを上から掛けた。それから持っていた携帯用酒瓶のふたを開け、逆さにすると中からドロッとした液体が出てきた。
「ポリジュース薬じゃな。これでムーディに成りすましていたらしい。まことに単純で見事な手口じゃ。ムーディは決して自分の携帯用酒瓶からしか飲み物を飲まないと誰もが知っていたからな。恐らくムーディに成りすます為生かしておく必要があったのじゃろう。だが、しばらくすれば元の体に戻る」
ダンブルドアの言葉通り、数分間黙って偽ムーディを見張っていると、徐々に変化が訪れてきた。
傷だらけの体から傷跡が消え、削がれた鼻も元通りになり、ひん曲がった唇が真っ直ぐになった。髪は白髪交じりから薄茶色に変わってきた。それから義足が音を立てて床に転がり、正常な足が生えてくると同時に魔法の眼も外れ、代わりに正常な眼球が現れた。
元の姿に戻った男を見て、ハリーは再び声を上げた。クリスと一緒に憂いの篩の中で見た事がある、クラウチ氏の息子だ。記憶の中より歳をとっていたが、この顔は見間違えがない。
しかし、何故アズカバンの監獄で死んだはずのクラウチ氏の息子がこうして生きてムーディに化けていたのだろう。
「ダンブルドア先生、この人は……」
「バーティミウス・クラウチJr。クラウチ氏の実の息子じゃよ」
その時、スネイプ先生と一緒にウィンキーを連れたマクゴナガル先生が戻ってきた。ウィンキーはクラウチ氏の息子を見ると、大きな目をこれでもかと言わんばかりに見開き、慌ててクラウチJrの傍に駆け寄った。
「バーティ様!バーティ様!!起きて下さいまし!!あぁ、よもやこんな所でお会い出来ようとは!!」
ウィンキーはキンキン声で泣き叫びながら、ボロボロ涙をこぼし、キッとダンブルドア達を睨みつけた。
「彼方様たちがバーティ様をお殺しになされました!ウィンキーにとって大切なこのお方をお殺しになされました!!」
「心配せんでも良い。呪文で失神しているだけじゃ。セブルス、例の薬は持ってきたかね?」