第32章 【幕引き】
「以前にも言ったな、ポッター。俺が1番憎いのは野放しになっている『死喰い人』達だと。ご主人様に背を向けアズカバン行を逃れ、クィディッチ・ワールドカップで騒ぐ度胸はあっても、俺が打ち上げた『闇の印』を見ただけで一目散に逃げ去った腰抜けどもが、俺は何よりも憎い」
「彼方が、『闇の印』を打ち上げた?……嘘だ、だって先生は――」
「不思議だとは思わなかったのか?ポッター。高々4年生の未熟な魔法使いが、代表選手として数々の課題をこなしてこられた事を。全て俺が陰で支えてきたからだ。第1の課題の前にハグリッドをそそのかしたのも、第2の課題の時、屋敷しもべに鰓昆布の事を教えたのも、第3の課題の時、障害を突破できるよう細工したのも俺が仕組んだんだ。そして優勝杯を『ポートキー』にすり替えたのも俺だ。全て『闇の皇帝』の御前にお前を差し出す為に俺が細工したのだ!」
ハリーは愕然とした。往年の『闇祓い』として有名なこの人が、何故ヴォルデモートなんかに従っているんだろう。『死喰い人』との戦いでも、勇敢に戦ったこの人が、何故ヴォルデモートなんかに従っているんだろう。ダンブルドアの古い友人であり、『憂いの篩』の中で、裁判の時にハッキリと『死喰い人』に怒りを露わにしていたこの人が、何故!?
「貴様は今までダンブルドアの加護の元、のうのうと生き延びられてきたが、もうそれも終わりだ。さらばだ、ハリー・ポッターよ」
ムーディが呪文を唱えようとしたまさにその時――バーン!という激しい音と共に、扉をぶち破って、赤い閃光がムーディの体に直撃した。
ハリーは咄嗟に扉の方を見ると、ダンブルドアを筆頭に、マクゴナガル先生、スネイプ先生が揃って杖をかまえていた。
ハリーはダンブルドアの表情を見て驚きを隠せなかった。いつもの柔和な顔とは180度変わり、鬼気迫る顔つきには恐ろしさも垣間見えた。
3人は壊れた扉を跨いでムーディに近づくと、うつ伏せに倒れた体を足でけり上げて無理矢理面を向かせた。
「無事か、ハリー?」
「はい……」
ダンブルドアの声には鋭く、まだ怒りの断片が残っていた。マクゴナガル先生はクリスに近づくと、呼吸の有無を確かめ、ほっと息を吐くとハリーに向き直った。