第32章 【幕引き】
「誰か、担架を。この子を医務室に運ばなければ。それにハリーも」
「いや、ハリーは此処に――」
「ダンブルドア、ディゴリー夫妻がやって来たぞ。遺体を見せる前に説明しなければ」
「……ハリー、クリスを頼んだぞ。わしが戻って来るまで此処に居るんじゃ」
ハリーが返事をする前に、ダンブルドアはファッジと一緒に行ってしまった。ハリーは視線だけクリスに向けたが、その姿は痛々しいものだった。
ハリーはなんとかクリスを止めさせようと這いつくばってクリスの腕に触れたが、クリスは何かうわごとの様にブツブツと呟きながら地面を掘る手を止めない。狂ってる――ハリーは哀れみと同時に恐怖を覚えた。
その時、ハリーの肩をかすめて、白い閃光がクリスの背中を直撃した。するとクリスは糸の切れた操り人形の様にパタッとその場に倒れた。
「案ずるな、眠らせただけだ。ハリー、わしと一緒に来い。医務室へ行こう、クリスも一緒だ」
「でも……ダンブルドア先生が、動くなって……」
「お前さんは少し休まなければならん。わしに掴まれ。クリスには担架を出そう」
肉体的にも精神的にも疲れていたハリーは、それが誰かも分からなかったが、取りあえずクリスを医務室に連れて行きたいと言う思いからその声の主に従った。
クリスは魔法で担架に乗せられると、抱きかかえられて歩くハリーと一緒に、人ごみから抜け出して城へと向かった。
「それでハリー、何が起こった?」
城へ続く石段を上る時、コツコツという独特な音を聞いて、ハリーは声の主がムーディだと分かった。ムーディなら大丈夫だ。クリスも魔法で眠っているだけだと言っていたし――。
ハリーはムーディに抱えられながら廊下を歩いていった。歩きながら、ハリーはありとあらゆる事を話した。
優勝杯が『ポートキー』だった事も、ヴォルデモートが復活した事も、ヴォルデモートがクリスの父親だった事も、死喰い人が現れ、その中でヴォルデモートと決闘した事も。
あまりに夢中だったので、ハリーはどこの部屋に通されたのか気づかなかった。ただバタンと扉が閉まり、ガチャっと鍵がかけられる音を聞いて、医務室ではない事だけが分かった。