第32章 【幕引き】
「クリス……駄目だ、もう戻れない。終わったんだ、全部、終わったんだよ……」
「う、ううう。あぁ、あああぁぁ……」
もうハッキリとした言葉さえも出てこない。クリスは狂ったようにその場に這いつくばると地面を掘った。まるで地面の裏側が先程の墓地に続いていると信じているかの如く、爪が剥がれ、指先から血が滲んでも地面を掘り進めた。
その内、ガヤガヤと人の声がしてきたと思ったら、ダンブルドアを先頭に生垣の周りを巡回していた先生達が姿を見せた。しかしそれでもクリスは気に留めることなく地面を掘り続けている。
「ハリー、一体何があったのじゃ?」
「先生……あいつが、ヴォルデモートが復活しました……以前より、さらに強大に、強くなって……それで、セドリックが殺されて、クリスの……お、お父さんも……」
「なんと!!」
教師陣に交じって、魔法省大臣のコーネリウス・ファッジが大声を上げた。青白い顔をして、倒れているセドリックの傍で慌てふためいている。
「死んでいる!生徒が1人死んでいるぞ!!」
「息をしていない!死んでいるぞ、セドリック・ディゴリーが死んでいる!!」
「誰か、ハッフルパフの寮監とディゴリーの両親を呼んできてくれ!!」
「それにこっちの女の子はどうした!?いつここに現れた!?」
人々の声が行きかう中、クリスは夢中で地面を掘っていた。誰の声にも耳を貸さず、その瞳には狂気が宿っていた。
クリスの精神はもう限界を越えていた。長年父と思い続けていた人は赤の他人で、恐怖の帝王と恐れられていた人物が実の父親の上、無理矢理母を孕ませた。
そして父親だと思っていた人はクリスを庇って死に、密かに憧れていた人もゴミ同然に殺された。正気を保っていろと言われる方が酷だろう。
しかし、周りの人間は何も知らずいきなり現れ、狂ったように地面を掘るクリスに異様な視線を投げかけた。
「何をしているんだこの子は?」
「何処から現れた?」
「クリス……クリス、もう良いから止しなさい」
「うがぁっ!!」
ダンブルドアが優しくクリスを止めようとしたが、クリスは暴れて抵抗した。そして口から唸り声を上げながら怪我もかえりみず、ただ地面を掘り続けた。