第32章 【幕引き】
網膜に焼き付いて離れない、緑色の閃光を背中に浴び、目を見開いたままゆっくりとゆっくりと倒れる男の姿。それはかつて――父と呼んでいた男の姿だった。
【第30話 幕引き】
「父様あぁぁーーーー!!!」
クリスは腕を伸ばしてクラウスに駆け寄ろうとした。しかし、ハリーがクリスの腕をつかんで引き戻そうとして放さない。倒れている父に、いや、父と呼んでいた人のもとに何が何でも行こうと、必死にもがくクリスだったが、ハリーがそれを許さなかった。
「離してくれハリー、父様が、父様が倒れたんだ!!」
「駄目だ!!クリス、君のお父さんは……君のお父さんはもう……死んだんだ!!」
「嘘だ――嘘だそんな事!ただ、ただ倒れているだけだ!!早く行って助けないと!!」
クリスの目にはクラウスしか映っていなかった。頭の中ではグルグルと幼い頃の父との日々が目まぐるしく蘇る。
まだ何も言っていない、伝えていない。ありがとうとも、嬉しかったとも、愛しているとも――。
クリスはその細腕からは想像できないほどの力で抵抗し、腕を伸ばし、あと少しでハリーの制止を振り切れるところだったが、それよりもハリーが杖を出して呪文を唱えた方が早かった。
「アクシオ!優勝杯よ、来い!!」
途端にもの凄い力で吸い込まれるような感覚がして、クリスの意思とは関係なく、視界が目まぐるしくグルグルと回った。
気が付いたら、芝生の上に寝ころんでいた。隣にはハリーとセドリックが倒れている。ハリーは激しく呼吸を繰り返していると言うのに、セドリックはピクリとも動かない。まるで、そう、死んでいるかのように……。
「あ……ああ……ああぁ……あああぁぁ――!!」
ぷっつりと、クリスの中で何かが切れた。
クリスはもう1度優勝杯に触れさっきの場所に戻ろうとしたが、足に力が入らない上に、ハリーががっしりと腕をつかんでいて前に進めない。