第31章 【偽りの使徒】
クリスの詠唱に呼応するように、何処からともなく地響きが鳴り、やがて周囲の草木を揺らし、大地が揺れ始めた。
( 古より伝わりし 血の盟約において 汝に命ず )
「なっ、何が起こっている!?」
地震はどんどんと大きくなり、クリスが集中すればするほど大地は揺れ、大きな裂け目を作った。
地面が揺れる中、クリスがゆっくり目を開けると、ある異変に気づいた。『死喰い人』達が狼狽え、散り散りになっている。この隙にハリーを救い出せば――。
しかし不思議な事に、ハリーは金色のドームのような半円の光に包まれ、『例のあの人』と戦っていた。否、繋がっていた。ハリーの杖から出た閃光と『例のあの人』の杖から出た閃光が一本の線となり、電撃の様に震えている。
クリスは今まで、こんな光景は見た事が無かった。いったい何が起こっているんだろう。
そして――クリスは見た。『例のあの人』の杖から、セドリックの姿をした煙のようなゴーストが出てきたのを。
そしてその次に見た事も無い老人のゴーストが出てきた。そしてバーサ・ジョーキンズのゴーストが出てきて、セドリック達と同じようにドームの内側にハリーを見守るようにして並んだ。
クリスには何が起こっているのか分からなかったが、『例のあの人』の驚いている表情を見て、これは好機だと判断した。
「ハリー!頑張れ!!」
クリスは叫ぶと同時に、手を握りしめ精霊の力を増幅させようと試みた。とにかく強くイメージするのだ。精霊の力を借り、この場から逃げ帰るのを。
(絶対に帰ってやる、ハリーと、セドリックと一緒に。あのホグワーツまでっ!……)
クリスの目は、もう死を目前にした人間の目ではなかった。ハリーと同じ、挑む者の目だった。ハリーは振動する杖を握りしめ『例のあの人』と繋がっている光を絶やさない様に必死だった。