第31章 【偽りの使徒】
「うるさいっ!お前に……母様も守れなかったお前なんかに何が分かる!!」
「守れなかったのではない、守らなかったのだ。そもそもお前の母には生前から何の感情も抱いていない。あるとすれば、良い“器”として使えるかと言うくらいのものだ。お前の事も、闇の皇帝の血を引いていなければ赤子の時とっくに殺している。殺さなかったのは利用価値があると思ったからだ」
「うるさいっ!黙れ、黙れ!嘘つきめ、お前の言葉なんて信じるものか!」
「――ああ、それで良い。私の言葉を信じた所で何になる?」
「え?」とクリスは再びクラウスの顔を仰ぎ見た。クラウスはキュッと唇を噛み締め、コクリと小さく頷き耳元で囁いた。
「優勝杯が『ポートキー』になっている。それを使ってポッターと逃げろ……召喚の杖は、私に任せろ」
クリスの心臓がドクンと音を立てて動いた。クラウスが耳元でささやいたのはその1回きりで、また元の体勢に戻り、嘘とも本当とも取れない言葉を周囲の『死喰い人』に聞こえる様に発した。
「生きて帰る事は諦めるんだな。ここにはダンブルドアも居なければ、頼りになる召喚の杖も手元にない。召喚の杖さえなければ、お前は精霊を使役することが出来ないただの役立たずだ。奇跡でも起きない限り、お前たちはホグワーツに帰る事など出来はしない」
本当に――本当に父の言う事が嘘だとしたら……生きて帰れる?召喚の杖を使わずとも?
いや、待てよ。確か……グワーツに入学する前、召喚の杖を受け継いだ時に父が言っていた。本当に大切なのは杖や呪文じゃなく、精霊との絆なのだと。それなら――出来るかもしれない。召喚の杖が無くても精霊を召喚する事が。
クリスは目を閉じて感覚を研ぎ澄まさせた。
( 気高き意思を持つ 大地の使者よ )
心の中で詠唱を始めると、だんだん体の奥が熱くなってくるのを感じた。この感覚、以前精霊を召喚した時と同じだ。これならやれる、杖がなくとも――私達は絆で繋がっている!