第31章 【偽りの使徒】
そして、遂に『例のあの人』の杖から煙のような女の人の姿が出てきた。髪の長い、優しそうな女性だ。その人はハリーの耳元でなにか囁き、他のゴースト達と同じようにハリーの周りに並んだ。
それから、今度はハリーによく似た男の人のゴーストが杖から出てきた。きっとあの2人はハリーの両親だ。だってあんなにも愛おしそうにハリーを見つめている。
「クリス、今だ!ポッターと一緒に逃げろ!!」
クラウスが叫ぶと同時に、ハリーと例のあの人を繋いでいた閃光が途切れ、金色のドームが消えた。しかしゴースト達の姿は消えず、まるで2人が逃げるのを手伝うかのように『例のあの人』の前に立ち塞がった。
チャンスは今しかない。クリスはポートキー目指して真っ直ぐ走った。そのすぐ後ろから、ハリーが肩越しに『妨害の呪文』を『死喰い人』達に向けて発射しながら走ってきた。
「小僧は俺様が殺す!小娘は生け捕りにしろ!!裏切り者は殺してもかまわん!!」
『例のあの人』が『死喰い人』達に命令しながら呪文をかけつつ迫ってきた。緑色の閃光と赤い閃光があちこちから襲ってくる。それを間一髪で避けながらクリスは一生懸命走った。
多勢に無勢、戦うだけ無駄だ。今は逃げるが勝ちだ。ハリーが途中、セドリックの遺体を担いでクリスに追いついた。クリスはハリーの手をつかみ、ポートキーに手を伸ばした。
「死ね!ハリー・ポッター!!」
緑色の閃光がハリーめがけて襲って来た。クリスは咄嗟に体勢を変えてハリーの前に立ち大きく両手を広げた。自分はどうなっても良い、だがハリーだけは……。
その時――クリスを守る様に真っ黒い大きな塊が立ち塞がった。それは長年“父”だと信じ続けた、クラウスの姿だった。
まるでスローモーションで再生しているかの様に、クラウスの体がゆっくりと、風に吹かれた柳の葉の様に横なぎに倒れた。闇のような黒い瞳を見開いたまま。
「と……と……父様あぁっっーーーーー!!!!」
クリスの悲痛な叫び声が、夜の帳が落ちた丘の上に虚しく響いた。