第30章 【指し示す者】
最初は真面目にハリーとセドリックの無事を祈っていたクリスも、そんな周りに感化されたのか、だんだんくそ真面目に無事を祈っているのが馬鹿らしく思えてきた。
こんな迷路を抜けるのに、いったい何分かかっているんだか。いくら障害物があったとはいえ、クリスからすれば時間をかけすぎている。そしてそれ以上に、生け垣が邪魔で、選手の行動が全く見えないのもイライラの原因であった。
「あー、もう!頭くるなぁ!!こんな迷路に何分時間を費やしているんだか!!」
「仕方ないわよ、でもまだ誰も脱落していないんだから、ある意味では良い事よ」
「と、言ってもなあ……」
そう言って空を見上げると、沈みかけた夕暮れの空に見慣れた2羽のカラスの姿が見えた。あれは間違いない、父様の使い魔・ヤナフとウルキだ。
どうしてこんな所に居るんだろうか。2羽のカラスは、まるでクリスを誘い出すかのように空中を旋回している。
「ハーマオニー、私はちょっと抜けるから後よろしく」
「よ、よろしくって……貴女どこに行くつもり!?まだ試合中よ!!?」
「大丈夫、直ぐに戻るから」
もしかして、父の身に何かあったのだろうか。クリスは席を立って、応援席から抜け出した。それを待っていたかと言わんばかりに、ヤナフとウルキが道案内をするようにスーッと上空を飛んでいく。
クリスはそれに置いて行かれない様に一生懸命走った。2羽は校庭を抜けると、温室を越え、ハグリッドの小屋を通り過ぎ、校門の前でまた旋回してクリス待っていた。
一応規則として、生徒が勝手に門を開けることは禁じられている。が、この際どうでも良い。クリスは杖を取り出した。
「アロホモラ!」
ハリーの特訓に付き合っていたお蔭か、鍵は思っていたよりすんなり開いた。するとヤナフとウルキは門を越えてホグズミード駅への道を飛んで行った。
この門を超えたら、完全に学校の敷地を出ることになる。少し後ろめたい気持ちもあったが、早くしなければヤナフとウルキを完全に見失ってしまうのではないかという懸念が、クリスの背中を押した。