第29章 【来るべき時】
クリスは『太った婦人』に合言葉を言うと、談話室に入ってハリー達を探した。しかし姿がない。もしかすると別の場所に居るのだろうか。
思い当たる節があるとすれば、『憂いの篩』で見た裁判について、シリウスに手紙を書いているかもしれないという事くらいか……。
クリスは踵を返してふくろう小屋へと向かった。するとボソボソと話し声が聞こえてきて、間違いなくハリー達だと思ってクリスは螺旋階段を駆け上った。
「――だから、それじゃあ脅迫みたいじゃないか」
「でもこっちだってもう計画は進みつつあるんだ。それを――」
「その声は……フレッド?ジョージ?」
しかしふくろう小屋に居たのはフレッドとジョージだった。クリスが来たと分かると、2人は咄嗟に話しを止めて何かを後ろに隠した。怪しいことこの上ない。クリスは鋭い視線を送った。
「何の計画だ?」
「計画?何の事?」
「クリスの聞き間違いじゃないのかな?」
隠そうとするところがますます怪しい。クリスはジト目で2人を睨むと、後ろに隠した何かを奪おうと手を伸ばした。が、ジョージの方が手が早かった。間一髪のところで手紙を高々と上げ、クリスの手が届かないようにした。
「おっと、危ない危ない」
「そんなに物騒な手紙なのか!?事によってはご両親に告げ口するぞ!」
「頼む、それだけは止めてくれクリス!これには僕らの将来の夢が詰まってるんだよ!!」
「将来の……ゆ、夢?」
全くと言って良いほど2人には似つかわしくない言葉に、クリスは呆気にとられた。フレッドとジョージは目配せすると、クリスの耳元で囁いた。
「実は僕ら、将来お店を開きたいと思ってるんだよ」
「お、お店!?」
「シーッ!!静かに!でもある事情で今までコツコツためていたお金をだまし取られたんだ」
この2人を騙すなんて相当なやり手か、もしくは人には言えない方法を取っているんだろう。だから2人はコソコソと隠密に行動しているのかもしれない。クリスはもう少し2人の話しを聞いてみることにした。