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ハリー・ポッターと闇の姫君

第29章 【来るべき時】


 柔らかくセドリックが笑った。
 どうしてだろう、セドリックが言うと、なにもかもが上手くいく様な気がする。――ハリー達に全てを打ち明けよう。それで駄目だったら、悲しいがハリー達との縁はそれまでだったと言う事だ。みるみるうちに、クリスに自信が湧いて来た。

「ありがとう、セドリック。私、皆に話してみるよ」
「それが良いよ。もし駄目だったら僕の所においで、またハンカチくらい貸してあげるよ。それとも胸の方が良い?」
「……ハンカチにしておく」

 いつの日かを思い出させるやりとりに、どちらともなく顔を見合わせて笑みがこぼれた。本当に、何でもないこの時間が愛おしく思える。

 いつの間に自分はセドリックにここまで心を許していたのだろう。ハリー達とも、ドラコとも違う、柔らかくて穏やかな時間。少しルーピン先生を思わせる優しい彼に、自分は惹かれているとクリスは思った。
 これがただの憧れなのか、恋なのかは分からない。だが確かに友情ではない何かをセドリックに感じていた。だからこそ友達以上恋人未満なこの関係が1番煩わしくなくて良い。これ以上近づいたらきっと離れられなくなる。

 クリスは最後に繋がれた手をギュッと握りしめてから起き上がった。

「悪いけど、先生を呼んできてくれないか?もう行かなくちゃ」
「分かった。でも無理だけはしないで。君、倒れた時もの凄い顔色が悪かったから」

 おまじない、と言って握っていた手に軽くキスをすると、セドリックはマダム・ポンフリーの居る事務室に行った。本当に女心をつかむのが上手い男だ、とクリスは密かに思った。だが悪い気はしない。寧ろ、少し手が熱くなる感覚に陥る。
 少し心ときめく、ふわふわした温かい気持ち。ルーピン先生の時のような燃える恋ではないが、こんな風に穏やかな心温まる感情もあるんだなとクリスはため息を吐いた。

 セドリックが出て行った後、マダム・ポンフリーがやって来てあれこれ検査をしたが、特に異常は無いと言われ、クリスは医務室を出た。向かうは談話室、きっとハリー達はそこに居るはずだ。
 キチンと話をしよう。変な誤解を生まない様にすれば、きっと皆分かってくれるはずだ。それでも駄目な時は――約束通りセドリックにでも泣きつこう。
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