第29章 【来るべき時】
目が覚めた時、見慣れぬ天井だったので、今まで在った事は全部夢で、今もまだ夢の中なのだと思っていた。だが、ボンヤリと見えたセドリックの顔を見て、ダンブルドアの校長室であったこと全てが辛い現実だと思い出した。
しかし自分が思っていたより平常心を保っていられたのは、目覚めて初めに見た顔がセドリックだったからだと思う。これがハリーやドラコだったら――また取り乱してしまったかもしれない。
「やあ、目が覚めた?」
「……また迷惑かけちゃったな、セドリック」
「本当、ビックリしたよ。突然飛び込んできたと思ったら、腕の中で失神するんだもん。まるで僕が気を失わせたみたいだったよ」
そう言って、セドリックは微笑みながらクリスの髪をクシャッと撫でた。こんな何でもないやりとりが、とてもかけがえなく思える。セドリックにはチョウというれっきとしたガールフレンドがいる事は分かっているが、こうやって傍に居て欲しい大切な存在だと心から思う。
「そう言えば、ハリーは?」
「……さっきまでロン達と一緒に君の傍に居たんだけどね。マダム・ポンフリーに怒られて医務室を出て行ったよ」
「なら……どうしてセドリックは?」
「これだよ」
セドリックは、しっかりと繋がれたクリスの手を持ち上げた。その瞬間クリスは恥ずかしくなった。知らず知らずのうちに自分からセドリックの手を握り締めていたのだ。慌てて放そうとしたが、セドリックがそれを拒んだ。
「まだ良いよ、安心するなら握ってても」
「でも……」
そう言いつつ、クリスは大きな手にあらがう事なくされるがままにしておいた。先程の――ハリーに最悪の形で腕の痣を知られたショックはまだ大きく、こうして誰かにすがっていたかった。
「なあ、セドリック。もし――もし自分が必死に隠していた秘密がばれたら……どうする?」
「それは廊下でハリーと揉めていたことと関係があるのかな?」
「…………」
「そうだな……僕なら全てを打ち明ける」
「でも、それで嫌われたら?」
「それで嫌われたら、その人とはそれまでの関係だったって事だよ。本当の友達なら、きっと受け入れてくれるはずだよ」