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ハリー・ポッターと闇の姫君

第28章 【憂いの篩】


 クリスはそれ以上言葉が出てこなかった。本来ならばまず先にダンブルドア校長の部屋で勝手に道具を使った事を謝るべきであろうが、今のクリスにはそんな事頭になかった。
 ただ聞きたくなかった、聞かせたくなかった痣の秘密を最悪の形でハリーに聞かれてしまったと言う事実が頭を巡っていた。

「もどろう、熱い紅茶でも飲みながら話をしよう」
「先生……」
「わしに掴まると良い」

 ダンブルドアを挟んでハリーとクリスが肩に掴まると、ふわっと体か浮くような感じがして、景色が歪み、元の校長室に戻った。

 ハリーとクリス、ダンブルドア以外は誰もいない。いるとすれば不死鳥のフォークスだけの静かな部屋の中、クリスは何と言って良いか分からなかった。
 ダンブルドアが杖を回すと、空中から丸い椅子が2脚と、琥珀色の紅茶が入った白いティーカップが現れた。

「あの――すみませんでした。僕達、先生が居ないからって勝手な事をして……」
「なに、人の好奇心というものは抑えようとすればするほど抑制出来ぬものでな。わしが逆の立場でもきっと覗いておった事だろう」

 ダンブルドアは半月形の眼鏡の淵をキラリと光らせて笑った。良かった、取りあえず御咎めはないらしい。

「これは何ですか?クリスが言うには、記憶の中だって言っていましたけど……」
「むふ、まあ半分正解じゃな。これは記憶は記憶でも、特に厄介な記憶――『憂い』を込めた『憂いの篩』と言い、名をペンシーブとも言う」
「これと同じものが、実家にもありました。中には……学生の頃の父と母の記憶が入っていましたが……」

 父の中では、母の記憶は全て『憂い』なのだろうか?最愛の妻を亡くした悲しみは、あの煌めいていた青春さえも『憂い』に変えてしまうのだろうか。
 クリスはもう何を信じればいいのか分からなくなって、頭がいっぱいだった。

「クリス、君にもこの『憂いの篩』が必要なようじゃな」
「え?」
「この篩はな、考える事や感じることが多くなりすぎて頭の中が溢れそうなときに使うんじゃよ。きっと今の君にぴったりじゃ。今度校長室に来た時、使ってみると良い。こんな風に――」
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