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ハリー・ポッターと闇の姫君

第28章 【憂いの篩】


 いったい、ルシウスおじ様は何の事を言っているんだろう。と言うのがクリスの率直な意見だった。この先を聞きたいが、聞いたら引き返せなくなる気がする。
 好奇心と恐怖心が入り混じり、胃がねじり切れそうだった。心臓がバクバク煩いのに、耳がどんな周囲の音も聞き逃さまいとしている。
 今だったらまだ戻れる、聞かなかったことに出来るのに、身体は石のように固まったまま動かなかった。

「クリス?……クリス!ねえクリスッ!!」
「ん?あ……あぁ、ハリーか……」
「ねえ、この裁判なんかおかしいよ。もうダンブルドアの部屋に戻ろう?君凄く顔色が悪いよ。手もこんなに冷たい」
「ああ、そうだな。行こ――」
「闇の姫君!この子を他の『死喰い人』達はそう呼んでいました!!」

 帰ろうとしていたクリスだったが、その呼び名を聞いた時また体が石のように動かなくなった。
 前にも聞いた事がある。あれは夢の中だったか……大人たちの叫ぶ声と、赤ン坊の鳴き声。そして焼けるような左手首の痣。夢の中の出来事が、今真実となって突き付けられようとしている。クリスの心臓が早鐘を打った様に激しくなった。

「そうなのです!死んだ母親に変わり、類稀なる力を持ったこの子を担ぎあげ、成長したあかつきには『例のあの人』の右腕となる運命を担わされた。その証に……可哀相にも産まれおちたその日に、なんと――なんと左手首に『闇の印』を刻まれたのです!!」

 部屋中が一気に爆発したよ言うな声を上げた。その声に驚いたのか、ルシウスの腕の中にいた赤ん坊が大声で泣き始めた。よく見ると髪が真っ黒で、とてもドラコとは思えない。あれは――私だ。

 心底驚いたのだろう、ハリーの手から力が抜け、クリスの手がするりと落ちた。知られた――ついにこの時が来てしまった。
 怖くてハリーの方を振り返れない。ハリーはどんな顔をしているだろうか。恐怖に引きつっているだろうか。それとも嫌悪感で顔を歪めているだろうか。どちらにしても友好的な顔をしているわけがない。
 震えるクリスの肩を、暖かい手がポンと叩いた。

「クリス……」
「ダンブルドア……先生」
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