第2章 【variation】
「父様、支度がととのいました。チャンドラー、荷物を運べ」
「かしこまりました、お嬢さま」
パチンッと独特の音と共にチャンドラーの姿が消えたかと思うと、またパチンッと音がして、大きなトランクケースとネサラのかごを抱えて戻ってきた。本当に便利な生き物だ、屋敷しもべというものは。
「忘れ物は無いな?」
「はい、大丈夫です」
「お嬢さま、もし忘れ物がありましたら遠慮なくお知らせください。直ぐに送り届けますから」
「はいはい。では行きましょう、父様」
「ああ、このストールを『ポートキー』にした。お前は端に触れているだけで良い。―――フム、そろそろ時間だ。行くとしよう」
父がそう言った、その瞬間、クリスはお腹の内側からグイッと引っ張られるような気がして、クリスは身を固めた。視界がぐるぐる回り、足が地面から離れた。風がうなり吹き飛ばされそうになりながらも、クリスはストールを離さなかった。
クリスが必死に目を開けると、光沢のある真っ赤な背景が見えた。父を見ると、手をこちらにのばしている。クリスはその手を掴むと、力強く引き寄せられた。そして、気が付くとそこはもう9と3/4番線のホームだった。
外はバケツをひっくり返したような大雨だった。尚且つ9と3/4番線は人でごった返しており、今回ばかりは『ポートキー』で楽に来られて正解だった。今日だけは父に感謝したい。
クリスは早速ハリー達がいないか辺りを見回した。今年はハリーとハーマイオニーはクディッチ・ワールドカップでロンの家族と一緒に夏休みを過ごしたはずだから、ロンの家族と一緒に来ている筈だ。
しかしあの目立つ赤毛の集団が見つからない。これはもしかすると今年も出発ぎりぎりに来るのかもしれない。仕方なく、クリスは空いているコンパートメントを探す事にした。