第2章 【variation】
すると後方辺りに、1つ空いているコンパートメントを見付けた。クリスは父に手伝ってもらってトランクとネサラのカゴを運び込むと、父に別れの挨拶をしようと一旦プラットホームに戻った。
「父様、今日はありがとうございました」
「気にする事は無い」
そう言うと、父はふわりとクリスの頭をなでた。まるで小さい子をあやす様に。クリスは気恥ずかしくなって、何を言って良いのか分からなくなった。
これから冬休みまで会えなくなるから、何か気の利いた一言を言いたかったのに。頬を染めながら口を閉ざすクリスに、クラウスはひと言問うた。
「クリス、婚約の件だが……まだ納得していないのか?」
また来た、とクリスは思った。どうしてドラコといい、父といい、婚約の事ばかり気にするんだろう。クリスの意思をまるっきり無視しているのに、どうして気づいてくれないのか分からなかった。クリスはきゅっと手を握りしめた。
「――はい。今までもこれからも、私は自分の道は自分で決めます」
「そうか……だが忘れるな、自分の決めた道を行く事は困難を極めるぞ」
「分かっています」
「……なら、良いんだがな」
父は寂しそうな表情を見せた。そこでクリスはハッと気づいた。思い返せば、いつも我儘ばかりで父様の言う事なんて殆ど聞いたことは無かった。このまま親孝行をしないまま数カ月も別れるのは、流石のクリスも気分が悪かった。
「父様、クリスマスには帰りますから……また一緒に母様のお墓参りをしましょう」
「ああ……だが今年のクリスマスはきっと帰りたくなくなると思うぞ」
「どうしてですか?」
「ホグワーツに行けば分かる」
それだけを言い残して、父は『姿くらまし』をして消えてしまった。クリスの胸に一抹の不安だけを残して。