第2章 【variation】
それから10日後、いよいよホグワーツへ出発する日がやって来た。今年はどんなやり方でドラコの誘いを断ろうかと考えながら食卓へ行くと、そこには珍しく父・クラウスの姿があった。新聞を片手に、食後の紅茶を飲んでいる。
「……お早う御座います、父様」
「お早うクリス。今日は始業式だったな」
「はい」
「今日は私が駅まで送っていこう。今日は久々にゆっくりできる」
あの仕事の虫である父が、娘を駅まで送る!?入学式の時でさえ1人で行かせたのに!?
クリスは何か怪しい気配を感じたが、これでドラコと一緒に9と3/4番線まで行かなくて済むと思うと、こんなにラッキーな事も無い。
しかし、いったいどうやって行くつもりなのだろうか。家には車はおろか三輪車さえない。一応箒はあるが、マグルの目に付きやす過ぎる。あとは『姿現し』で行く方法もあるが、大きなトランク3つにネサラの入った鳥かごを持って『姿現し』するのは容易ではないだろう。
不安が顔に出たのか、クラウスがフッと笑った。
「安心しなさい、『ポートキー』を使う」
「『ポートキー』って何ですか?」
「そうか、お前は使った事なかったか。触れるだけで一瞬で目的地まで運ぶ便利な道具だ。『ポートキー』は私が用意するから、支度が出来たら声を掛けなさい」
それだけ言うと、クラウスはまた新聞に視線を戻した。クリスはこっそり疑り深い視線を送りながらも、濃いめの紅茶を1杯飲むと、チャンドラーに昼食のサンドウィッチを作らせ、自分は部屋に戻って身支度を整えた。一瞬――鏡に映った自分が、若き日のトム・リドルに見えて、クリスは衝動的に鏡を叩いた。
(ある筈ない……私と『例のあの人』に繋がりなんて……)
クリスはもう1度鏡をのぞき、父に似た色白で彫刻の様な端整な顔立ちと憂いを帯びた艶っぽさを確認すると、父の待つ食卓へと戻った。