第16章 【VOICES】
そう思うだけで、背筋に這い上がる様な寒気がはしり、足の力が抜けた。倒れそうになるのを必死になって耐え、また地下牢の教室に向かう廊下を歩きはじめた。
「クリス、クリス、クリス、クリス……」
浮かんでは消える彼女の笑顔。笑顔が見たい、自分だけに向けられていた、あの懐かしい笑顔が。
そう思っていたからか、不意にクリスの声が聞こえてきた気がした。初めは幻聴かと思ったが、違う。間違いなくクリスの声だ。その声を聞いただけで、鉛のような体が少し軽くなった気がした。
「あ~ぁ眠い。なんで朝から『魔法薬学』の授業があるんだ」
「仕方ないでしょ、振り替え授業なんだから」
「でもクリスの言う通り、やる気でないよな~」
クリスに続いて聞こえてきた声を聞いて、今度は余計に気分が悪くなった。クリス1人じゃない、いつも一緒に居るあの汚れた血のグレンジャーと、血を裏切るウィーズリーも一緒だ。と言う事は――。
「でも起きてるだけえらいよクリス。いつもなら教室着くまで寝てるくせに」
「私はそこまで寝坊助じゃないぞハリー」
――ポッターッ!!
ドラコは唇を噛み締めた。憎い、あいつの所為でクリスが自分から離れていってしまったと思うと殺してやりたいくらい憎い。いや、こうなったら今いっそこの手で……。
今のドラコは熱の所為か、感情のコントロールが出来なくなっている自分に気づいていない。ローブの懐にしまった杖に手をやり、ポッターが来るのを待った。声はだんだんとこちらに近づいてきている。
呼吸が苦しくなってきたが、構っている場合では無かった。頭の中はポッターに復讐してやることしかない。廊下の角を曲がって、4人が姿を見せた。まだドラコの存在に気づかず、下らない話を続けている。ドラコはぼやけた視界でポッターの姿を捕らえた。その瞬間――
「ドラコ?どうしたお前――」
不意にクリスの声が聞こえて、ドラコの腕から力が抜けた。久しぶりに聞く、涼やかな彼女の声。その時、体中の力が抜けたと同時に、ドラコはその場で意識を失った。