第16章 【VOICES】
1つめの 言葉は 羽 風を切って
白い雲の中 つぎつぎ 渡って
青空へ 連れ出すの
2つめの 言葉は 唄 耳をすませば
聞こえては 心の中を そっと
夕焼けへ 連れ出すの
3つめの 言葉は 夢 眠りの中から
懐かしい あの日の 思い出
彼方へ 連れ出すの
聞いたことがある、優しい歌。柔らかい声。よく母上が歌ってくれた子守唄だ……。
ドラコはゆっくりと目を開けると、クリスが赤ん坊を寝かしつける様に、優しく歌っている姿が目に入った。気が付くと、クリスが手を握っていてくれている。もしかして、ずっとこうして手を握って子守唄を歌ってくれていたのだろうか。
「……クリス?」
「お?起きたかドラコ」
クリスは呆れた様な顔で少し笑った。ああ、久しぶりに見る彼女の笑顔だ。その笑顔を見ただけで胸のつかえがとれた気がした。しかし、その笑顔もすぐに仏頂面に変わってしまった。
「お前、熱が何度あったと思う?40度だぞ、40度!朝起きて体調が悪いと思ったらすぐ医務室に行け、この馬鹿!!」
「うるさい、音痴」
「なんだってぇ!?そんな事言うのはこの口か、この!!」
そう言いながらクリスは空いている手でドラコの頬っぺたを引っ張った。そういえば、なぜ彼女だけここに居るのだろう。まだ授業中のはずだ。
「クリス、授業に戻らなくていいのかい?」
「あのなあ……戻りたくてもお前が手を握ったままだったから、スネイプ先生が仕方なく私も一緒に医務室に行く許可をくれたんだ。少しは私に感謝しろ、このデコ助!」
そう言うと、クリスは今度はドラコのおでこにデコピンをかましてきた。てっきりクリスの方から手を握ってくれたのだと勘違いしていたドラコは、だんだん恥ずかしくなってきて、手を離すと、顔が見えないようクリスに背を向けた。
「僕は寝る。君は僕のおかげで抜き打ちテストを免れたんだから感謝しろよな」
「言うに事欠いてこの~……」
「それから……ありが――」
「え?」
「~~っ!何でもない!」
お礼を言いかけただけで顔がほてってきたので、ドラコは言葉を切って布団を頭からかぶった。
それからまだ耳に残る彼女の歌声と久しぶりに見た笑顔を胸に、ドラコは幸福感の中、心地よいまどろみに身をゆだねていった。