第16章 【VOICES】
長く続く廊下は、まるで果てしも無く続いているような錯覚に陥らせる。果てしも無い回廊を延々とさ迷い歩きながら、ドラコの頭の中でも答えの無い問いかけがグルグルと巡り巡っていた。
(――そうだ、クリスの笑った顔を、僕はもうどれくらい見ていない?)
一週間か?一月か?いや、それ以上……?こんなのはおかしい。昔は自分だけがクリスを笑顔にさせていたはずだ。
我侭や癇癪を起こすと、なだめるのはいつも自分だったはずた。彼女の父親でさえ手こずっていたのに、自分だけには心を開いていたはずだ。クリスが部屋に引きこもったきり出てこないと、何度も彼女の家から使いが来ていた。それなのに――
「……ポッターめっ!」
石造りの廊下の壁を、ドラコは力なく殴った。そうだ、3年前のあの入学式の日、ホグワーツ特急でクリスとポッターが仲良くなって以来、彼女の心はどんどんと自分から離れていってしまった。
馬鹿げた額の傷と、生き残った男の子というふざけたネタをえさに、彼女をどんどんと自分の手中におさめていっている。
おまけに血を裏切るウィーズリーや穢れた血のグレンジャーとも仲良くしているなんて、まるで彼女がずるずると悪い罠に引きずり込まれていっているとしか思えない。
いや、実際そうなのだ。お陰でクリスのマグルびいきはますます悪化し、これ以上はまってしまったら引き返せなくなってしまう。それでなくとも、今彼女の家は微妙な立場にあるのだ。
それを知っていながらまるで家名を裏切るような行為を続ける彼女には、間違いなく周囲の人間が悪影響を及ぼしているとしか思えない。
彼女はそんな人間ではなかったはずだ。口ではなんと言おうと、実際には家名の重さを知り、家族を愛し、時には屋敷僕にすら情けをかけ、世話になっている自分の両親には敬愛をはかり、そして自分には――
(僕には……?)
昔は間違いなく友情と信頼を傾けてくれていた。しかし今は――?
熱の所為か、遠くの方でクリスの残像が見えた。ドラコは手を伸ばすと、残像はあっけなく消えてなくなった。
もう掴むことが出来ない。彼女自身だけではなく、その心さえも。どんどん消えていく、思い出も、友情も、信頼も、2人で過ごしたかけがえのない時間も何もかも。