第16章 【VOICES】
下品な笑いを浮かべるザビニの隣で、パンジーがこれでもかといわんばかりにふくれっ面になっている。
パンジーがドラコと一緒にダンス・パーティに行きたがっているのは知っているはずだ。それなのにどうしてこれ以上面倒を増やそうとするのか。やはりこの男は、顔以外は無能だとドラコは改めて実感した。
「それがどうしたんだ?言っておくが僕はクリス以外をパーティーに誘う気はないぞ」
「だけど当のグレインはパーティーに行く気がないんだろう?」
「そうよ!行く気がない人間をいくら誘ったって時間のムダよ。それにあの子、クリスマスは家に帰るつもりでドレスだって持ってきてないって言うじゃない」
「いつもの我侭さ。パーティーというと、いつもへそを曲げるんだよ」
「そこだよ、どうしてお前がグレインの我侭につきあってやる必要があるんだ?だいたい許婚って言ったって、まだ正式に婚約したわけでもないんだから、少しくらい遊んだって良いじゃないか」
それはある意味では真実だった。実際には許婚といえど親が決めた政略結婚。将来決められた相手がいるだけで、それまでは多少の火遊びすら禁じられている訳ではない。
それに血筋はグレイン家のほうが古いかもしれないが、今はマルフォイ家の方が格上だ。ドラコがそこまで義理立てする必要はどこにもない。
「――僕は……」
それでも、ドラコはクリス以外とパーティに行く気にはなれなかった。理由は、熱の所為かボーっとして上手くまとまらない。代わりに朦朧とする意識の中で浮かんでくるのは、全てクリスの幸せそうに笑う顔ばかりだ。
だが現実では、そんな顔は久しく見ていない。思い返せば、最近は顔を合わせるたび喧嘩ばかりしている。眉間にしわを寄せるクリスを思い出すと、何故か胃の辺りが締め付けられるようだった。
「僕は……もう一度クリスに――」
「えっ?」
「いや、なんでもない」
何を言おうとしたのだろう。自分でも分からないまま、ドラコはふらふら立ち上がると、ぽかんと口をあけたザビニとパンジーを置いて大広間を後にした。