第16章 【VOICES】
そう思うなら、そんなに大声で叫ばないでほしい。ただでさえパンジーの甲高い声は響くのだ。ドラコはこめかみを押さえながらも微笑んだ。
「大したことじゃない。ただ少し……熱があるだけさ」
「少しって感じじゃないわよ、早く医務室に――」
「そこまで心配するほどじゃない。本当に、見た目よりずっと良いんだ」
「本当に?辛くなったら遠慮なくいつでも言ってね?」
「ああ、ありがとう」
どんなに辛くても、他人の目があると平気なふりをしてしまうのは、身体に染み付いた性だ。いついかなる時でも、他人に弱みを見せてはならない。ドラコは今までそう教え込まれてきた。
だがそんな状態で、ドラコの体調は良くなるはずがなかった。1分1秒ごとに具合が悪くなり、大広間についても食欲は微塵もなく、むしろその臭いに余計気分が悪くなってしまった。それに広間を満遍なく満たす人の話し声は、もはやドラコにとって苦痛以外のなにものでもない。
しかし、ドラコが顔をしかめていようとも、気にする人はほとんどいなかった。千人以上が集まる朝の大広間では、たった1人の体調の変化にきづく人などまずいない。仮に気づいたとしても、もとから青白い病人のような顔色のため「今日のマルフォイは特に機嫌が悪い、きっとまたポッター達にやられたんだろう」と思われる程度で終わってしまう。
実際に似たようなことは今までもあったし、むしろ一目で見抜いたパンジーの方が特別なのだ。彼女はドラコに対してのみ鋭く変化を察するが、普通の人はまずこうなる。
「ようマルフォイ、今朝はずいぶんなご機嫌じゃないか」
同じ寮生のブレーズ・ザビニも、そう思っているうちの1人だった。
答えるのも億劫で、ドラコは目じりの先から視線だけを向けた。それが余計に機嫌が悪そうに見えたのか、ザビニはその端整な顔を引きつらせて愛想笑いを浮かべた。
「そ……そんなに怒るなよ。そうだ、今朝はいい話を持ってきたんだ」
「……良い話?」
と言っても、ザビニの持ってくる話はたいてい女の話ばかりだ。そして今回もまたそれが外れることはなかった。
「聞いて喜べ、なんとボーバトンの生徒の1人がお前にかなり気があるって話だ。それでダンスパーティにはマルフォイと一緒に行くって張り切ってるらしいぜ!」