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ハリー・ポッターと闇の姫君

第16章 【VOICES】


 その日は目が覚めた瞬間から、嫌な予感がしていた。体は重く、頭はぼうっとする。それにやたらと寒気までする。

「……不味いな」

 ベッドの中で、ドラコ・マルフォイは小さくつぶやいた。額に手を当てると、掌を伝って確かな熱まで感じる始末。
 季節の変わり目に体調を崩しやすいのは、今に始まったことではない。だからこそ風邪を引かないように気をつけていたのに、ここのところ疲れが溜まっていた所為かこのざまだ。

 ドラコはベッドサイドに寄りかかると、目を閉じて眉間にしわを寄せた。今日が普通の日なら彼もここまで悩みはしない。問題は、今日は朝から魔法薬学の授業があり、しかもよりによって抜き打ちテストが行われる。
 もちろん仮に休んだとしても、スネイプ先生なら後日改めてテストを受けさせてくれるだろう。寮監でもあり父の友人でもあるスネイプは、ドラコの事を誰よりも良くしてくれる。

 しかしそのスネイプに、ドラコはどうしても風邪で休むとは伝えたくなかった。それにグリフィンドールの連中に、テストに自信がないからサボったと思われたくもなかった。
 グリフィンドール生と違い、スリザリン生が魔法薬学の抜き打ちテストのことを事前に知っているのは、すでに公然の秘密だからだ。

 ドラコはもう一度額に手を当てると、それを振り払うように勢い良くベッドから飛び起きた。こんな風邪くらいどうってことはない。たかがテストくらい、多少熱があっても自分なら問題なく受けられる。むしろほかの連中にとっては丁度いいハンデだ。
 そう己に言い聞かせると、ドラコはいつものように朝支度を始めた。

 しかし現実はそうはいかなかった。具合は急速に悪くなる一方で、しだいに歩くことすら困難になってきた。寮から大広間までの道のりがこれほど長いとは、ドラコは今まで思ったことがなかった。

「チッ……こんなことなら、授業まで、部屋で休んでいればよかった」

 息も絶え絶えに壁に手をつき、ドラコは身を屈めた。熱のせいか体にうまく力が入らず、呼吸をするたびに肋骨が軋むように痛む。
 重い頭を、つい壁に持たせかけたその時――背後から甲高い声で呼び止められ、ドラコは反射的に背筋を伸ばした。

「おはよう、ドラコ!今日もとってもいい天気ね」
「やあパンジー、君か……」
「どうしたの?!いつもより顔色が悪いみたいよ」
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