第13章 【ほどけた紐】
「ああっ、嫌だわ。あの人また来てる」
ハーマイオニーの一言につられ、視線の先に目をやるとダームストラングの代表選手、クラムがいた。熱心に本を読んでいるところを見ると、彼も第一の課題に役立つ魔法を探しに来たのだろうか。
「あの人がいると落ち着いて読書も出来ないのよ。直ぐに追っかけが来て騒がしくなるから。ああ、ほら来た」
ハーマイオニーの言う通り、クラムのファンの女の子が黄色い声を上げながらこっそり彼の姿をのぞき見している。図書館を憩いの場にしているハーマイオニーからしてみればいい迷惑だろう。その心中は察するに余りある。
クリスは懐中時計をポケットから取り出し、そろそろ談話室に戻らないと、またロンが嫉妬して焼きもちを焼く頃だと気づくと、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。
しかし、これはチャンスかもしれない。ロンに第一の課題がドラゴンだと知らせれば、クリスと同じように嫉妬も何も消え去り、ハリーと仲直りしてくれるかもしれない。
クリスは『太った婦人』に合言葉を言うと、穴を這いあがり談話室に入った。思った通り、ロンが『魔法薬学』の宿題を前にイライラしながらレポートを殴り書きしていた。
「……どこに行ってたんだよ?」
「ハーマイオニーとハリーと図書館に居たんだ。ロン、真剣に聞いてくれ。ハリーの命が危ない、第一の課題はドラゴンだ」
ロンは一瞬レポートを書いていた手を止め、ぐしゃぐしゃにかき消すと羊皮紙を丸めて暖炉に放り投げた。それから何事も無かったように、また新しくレポートを書き始めた。
これだけじゃ決定打にならないかと、クリスは最後の駄目押しをした。
「――それだけじゃない、あのカルカロフ校長は元『死喰い人』だったって言うんだ。いい加減仲違いは止めよう、ロン。ハリーが心配じゃないのか?ハリーの身に危険が迫っているんだぞ!?」
「君もハリー、ハリー、ハリー。誰もっ……誰も僕の気持ちなんか分かっちゃいない」
珍しく、ロンが癇癪を起さず、静かに、だが心の底から絞り出すような切ない声を出した。
――分かっている、ロンの気持ちも。だけど今はハリーの事が心配で仕方がないのも事実だ。この気持ちをどうしたらいいのだろう。クリスは目の奥がツンと痛くなるのを我慢して言葉をつむいだ。