第12章 【木綿のハンカチーフ】
4人の心がバラバラでいる事に、クリスも限界を感じていた。叫びたかった、思いっきり叫んでこの体を渦巻く黒い靄を吐き出したかった。重度のストレスはクリスの体を蝕み、その挙句口から嗚咽がもれ出し、クリスは慌てて両手で口を押さえて耐えた。
どのくらいそうしていただろう。長い様で、短い様な時間が過ぎ去っていった。必死に唇を噛みしめるが涙は止まりそうにない。
その時、廊下の向こう側からぞろぞろと足音が聞こえ、クリスは柱の陰に隠れた。泣きはらした顔を大勢の生徒に見られたくは無かった。息を殺し、じっと耐えていると足音はクリスのいる廊下の角を通り過ぎていった。
しかしホッとしたのもつかの間、1人だけこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。とっさに涙をぬぐい、相手がやってくる前にまたどこか逃げ出そうと思った。その矢先――
「――クリス?」
聞き覚えのある声に、クリスは思わず振り返った。その先にはセドリックがいた。真っ赤に目を腫らせたクリスを見て、セドリックは微かに笑った。
「また泣いていたの?勇猛果敢なグリフィンドールさん」
「……こう言う時は黙って慰めるものだぞ、温厚篤実なハッフルパフの監督生さん」
やれやれと言って、セドリックはローブのポケットからハンカチを取り出した。
「どうぞ、ちゃんと洗濯してあるから使って」
「いい、要らない」
「遠慮するなよ、それとも胸の方が良い?」
「……ハンカチにしておく」
クリスはハンカチを受けとると、遠慮がちに軽く涙を拭いた。白い木綿のハンカチが、クリスの涙を優しく吸い込む。クリスの涙が止まったのを確認すると、セドリックは微笑みながら優しく訊いた。