第5章 昔話
「…俺には、親父がいない。」
「!…」
「いたことには…いた。でも、親父はDV気質で、それとアル中だった。だから、上手くいかないことがあったり、酒がきれたりすると、母さんに暴力を振るっていた。俺はまだそん時、ガキで、母さんをどうやって助けたらいいかわからなかった。」
「驚きの事実だな…。」
「結局、離婚届書いて、母さんが俺と一緒に親父から逃げてきた。親父が今何してんのか知らねぇけど、俺はアイツを親父だとは思わねぇ。…俺の親は、母さんしかいない。」
「…」
「そっから、今のマンションに引っ越してきたのが、俺が小学5年の時、痣だらけの母さんを見て、無力な自分に嫌気が差した。親父を殺してまで、母さんを助ければ良かった。って、あの時は本気で思った。それから母さんは、俺にやりたいことをやらせてくれた。警察に迷惑をかけて、呼び出された時も、頭を下げて、俺に一言注意するだけ。どれだけ女と遊んでいても、ほどほどにしなさいね。の一言。」
「…」
「…菜月。」
「!…な、何?」
「…お前が中学の時、いじめられてたの、俺知ってた。」
「!…」
「…でも、もう手遅れだった。そのことを聞いたのは、中学の卒業式の日だった。クラスの奴らが話してるのを偶然聞いた。…母さんの時に学習したはずだったのに、また同じことを繰り返した。何もできない自分に嫌気が差して、本気で変わってやろうと思った。」
確か、高校に入学するとき、春樹は喧嘩がもの凄く強くなっていたし、顔に傷をたくさん作っていた。
「…誰かを助けられんなら、俺は周りからの信頼も信用もいらねぇ。そう思ったんだよ。」
「…春樹…お前……セリフがくさいわ。」
「なっ…!?お、思ったこと言っただけだろうが。」
「ふふ~ん!春樹君って意外にくさいセリフ吐くんだねぇ~!」
「翔真テメェ…。」
握り拳を作っている春樹。