第1章 最悪最凶
「お会計が2873円になります。」
他の物も買っていた。
「…」
「3003円お預かりいたします。」
レジが動き、おつりが返ってきた。
「130円お返しいたします、お確かめくださいませ。ありがとうございます、またお越しくださいませ。」
「…」
「…」(なんか言ってほしかった。)
そう思い、仕事を続けた。
「怒ってるのかな…。」
「どうしたの?」
「わっ…!あ…佐藤さん…。」
社員の佐藤さん。薬剤師をやっている40歳くらいの女性。みんなからは陰で、お母さん、と呼ばれている。
「な、なんでもないです。」
「いつも一緒に来る子?」
「え…えぇ…まぁ…。」(鋭い…。)
「思いは慎重に伝えるべき、いや、早く伝えるべきだよ…!とか、それぞれの意見を持ってる人がいるけど、私は慎重に伝えるべきだと思う。」
「え…?」
「だってその方が、じっくり相手を観察できるし、もしその人の裏の顔を知って幻滅するようだったら、自分は彼の全てを好きなわけじゃないんだ。受け入れられない部分もあるんだ。って再認識できるでしょう?」
「はい。」
「でも、菜月ちゃんの場合は慎重すぎよね。」
「や、やっぱりですか?」
「うん。私があれこれ口出しする権利はないけど、もうかれこれ5年は片思いしてるでしょう?」
「!?…」
エスパーなのだろうか、この人は。だいたいそれくらい、片思いをしている。でも、自信が無いのだ。春樹にはもっと良い人がいる。そう思っていつも諦めてしまう。