第3章 とぅー!
私の頬に触れる、蒼生兄の手のひら。
それは壊れ物を扱うように優しく包む。
『えーっと、蒼生兄?』
彼の行動に不思議そうに見上げれば
蒼生「"兄弟"じゃなければ良かったのにね」
何かをぼそっと呟いては近づく唇があった。
『え』
恋愛経験に疎い私でもわかる。
だってこれ、キスされる3秒前だ。
そう思って迫り来る唇に目を見開いた刹那
蒼生「なーんてね。さっ下に行こうか」
超至近距離でいつもの調子を出した蒼生兄。
口から舌をだし、悪戯に笑う。
え、
『え!?』
そして、まるで何事もなかったかのように蒼生兄は私の頭を撫でると、スッと私の頬から手を離し距離を置いた。
蒼生「クスッ、戸惑っちゃって可愛い」
可愛い?
いや、そこじゃなくて!
なんです今のは!?
蒼生「ほら、早く行くよー」
天日干しで乾いた衣服や下着が入った籠を右手に持ちながら、蒼生兄はドアノブに手を掛け私を見る。
そんな彼に、私は床を見てからまた蒼生兄を見た。
『ねぇ待って、私、立花家の妹だよね?』
蒼生「え?」
蒼生兄の口から間抜けな声が出る。
え?
『ねぇ、蒼生兄』
蒼生「もう、急に何を言うかと思ったら。真白は僕たちの妹に決まってるでしょ。」
だが、いつもの陽気な声に変わった。
『本当に?』
蒼生「うん、本当に。だから真白を可愛がってるんじゃん」
『にしてはスキンシップが過度な気が…』
蒼生「昔はこのスキンシップが大好きだったくせに」
『はいはい、それは昔の話だから。 でも、妹なら良かった。』
蒼生「ご安心致しましたか、姫?」
『そういう所が兄弟ぽくないの』
蒼生「皆してるのにー。ま、夕飯食べに行くか」
『忘れてた!』
ふんわりと笑う蒼生兄は屋上のドアを手前に引くと、私を先に行かせてくれた。
にしても、ほんと私は何を言ってるんだろ。
ただ、戌里兄、蒼生兄の行動があまりにも妹に対しての態度じゃなかったからつい聞いたくなっちゃったんだよね。
それ聞いたって"妹だよ。"がオチなのにさ。
蒼生「ーー 」
急いで階段を駆け下りる真白の後ろ、なんとも言えない表情で後をついて行く蒼生がいた。
そんな蒼生のズボンのポケットのなか、スマホに一件の着信が入る。