第3章 鷹が動く
部屋の外で数人の海兵が臨戦態勢を取ったのが分かった。ナマエが逃げる気なら、つるは本気で仕掛けてくるだろう。
海兵達はナマエにとってなんの脅威にもならない。殺さぬよう手加減するのが難しいだけだ。つるもなんとか躱すことは出来る。問題はミホークだ。殺さぬようにと手を抜けば、斬られるのはこちらだ。最悪腕の一本くらい覚悟して逃げるしかなさそうだ。
ナマエが素早く逃走プランを組み立てていると、その問題の男が呑気に声を上げた。
「ナマエはおれが引き取ろう」
ぷつり。張り詰めていたその場の空気が、そんな音を立てて崩れた。
ナマエもつるも、たぶん外で様子を伺い聞き耳を立てていた海兵たちも、皆目を丸くして、ミホークの発言に驚いた。
「・・・私は海賊になるつもりもないんだが」
「・・・そうだよ鷹の目。一体なんの為にナマエを引き取るんだい」
ナマエは海兵にならないと言ったが、海賊を追い返していただけあって自分がそちら側に回ることは絶対に嫌だった。
つるも、何のためにナマエを海兵に勧誘していたかと言えば、ナマエの力が海賊に渡らないためであり、その戦力が欲しかったためである。
「おれについてくれば、双方の要求は通るだろう」
曰く、政府公認の海賊である七武海のミホークと行動を共にすれば、ナマエは政府の監視下に置かれたも同然だと。
曰く、ミホークと航海するからといって、ナマエに海賊になれと求めている訳でもなければ、仲間になれと言っている訳でもない。
「おれは主に人を殺させはしない。まぁ、自分の身は自分で守ってもらうがな」
ナマエはつるをちらりと見た。つるも同じように、ナマエに視線を寄越している。
二人にしては誠に不本意だが、ミホークの提案は理にかなっていた。
無駄な争いをするよりもその案に乗ることを目配せで決めた二人は、とりあえず休戦協定を結んだ。
「我が名はジュラキュール・ミホーク。主の強き心がおれを動かした。船に歓迎しよう」
その言葉を聞いて、海兵達がざわついた。
「鷹の目に女が出来た」
全く男どもの思考回路は単純だと、先程まで睨み合っていた女2人で苦笑した。