第46章 肥前、捻じれた世界へ行く 〔肥前忠広〕
「はぁ!?」
雅の言葉に肥前が反対に叫ぶ。
「肥前さん、アズールに会ったのぉ、うらやましぃぃぃ。かっこよかったでしょうぅぅぅ」
肥前につかみかかって雅は羨ましいと言い続ける。
「あ、おい」
肥前は叫ぶ主の両手首を掴み、掴んだ手首ごと畳に押し付けるように主のからだを強制的に押し倒す。
「は…え…あ…」
「主、落ち着け」
目を丸くしてぴたりとおとなしくなった雅だが、その体勢は肥前に押し倒されのしかかられている状況で、今度は真っ赤に顔色を変えた。
「あ…の…」
へどもどと先程と態度を変えた主に、肥前も状況をようやく理解し、ぱっと雅から離れる。
「その…すまない…」
横を向いて口元を片手で隠す肥前に、ゆっくり起き上がる雅は「いえ…あの…こっちこそ騒いでしまって…」と答えてやはり横を向いた。
「…戻る」
肥前は立ち上がり、雅は肥前を見上げる。
「今日は…おつかれさま…でした…」
「あぁ…おやすみ」
肥前は雅と目を合わさず部屋を出て、廊下を歩きながら「はぁ…っ」とため息をつき、両目を片手で覆ってあごをあげる。
「あんな顔、見せやがって…」
あんまり騒ぐから押し倒したら、誰にも見せた事のないおんなの顔を見せた雅に、感じた事のない感情を覚えた肥前。
その感情がどう動いていくかは…肥前と審神者の心のままに。
そして、ゲームの世界に入り込んでしまった肥前に、また入り込む可能性があるかどうか…さてはて。
<終>