第46章 肥前、捻じれた世界へ行く 〔肥前忠広〕
六振りの姿がうすく透明になり姿が消えると、生徒たちはたった今、ここで起きた事についてざわつき、そんな中フロイドだけはつまらなさそうにその場に無言で立っていた。
「…つまんね」
両手をポケットに乱暴に突っ込み、くるりと踵を返すと誰とも目を合わさずスタスタと戻っていくフロイドの姿は、誰が見ても機嫌の悪い彼そのもので、そんな時のフロイドと話しをするのも命がけと言われる程なため、誰もがそっと彼から離れ、なにごとも無いように祈った。
「ほう、無事に元へ戻れたようですね。それはなにより」
気配で状況を察した学園長は、手にした紅茶のカップを優雅に自分より少し上に掲げると敬意を表し、またそのカップを美しい所作で一気に中身を飲み干した。
「おかえりなさい」
ぱたぱたと廊下を走る軽い音がしたと思うと障子が開き、この本丸の主が姿を見せた。
「あー、肥前さん、無事で良かったぁ!」
主は肥前にばっと抱き着くと続ける。
「和泉守さんたちから肥前さんがいなくなったって聞いて探したんです。でも気配は全く感じられないし、もしかしたら時間遡行軍に連れて行かれたのかと思って、異世界のルートを探してようやく肥前さんを見付けたの」
主はばっと顔をあげると肥前から離れ、ぐるぐると肥前の周囲を歩き出す。
「どこか怪我してないですか?おなかは空いてないですか?」
「…おれは何ともない」
それを聞いて主はほっと胸を撫でおろす。
「それなら良いんです。本当におつかれさまでした」