第38章 愛も、戦いも、そして笑顔も。 〔同田貫正国/R18〕
抱き合うような状況になってしばらくして、突然がば、と雅が俺の胸を自分の手で押して俺から離れた。
「すっ…すみませんっ…私ったら何を…みっともないところを見せてしまって…」
ようやく落ち着いて、今の自分がどういう状態にあるか気付いたらしい。
慌てる雅を見て、俺はおかしくなって、ふ、と笑ってしまう。
「気にすんな…って言ってもあんたの事だ、俺と抱き合ったなんて気にするか?」
笑いながら言うと、俺の言葉が引っ掛かるのか顔を途端に赤くして言い返してくる。
「気にします…それにその言い方…抱き合うなんて…そんな…」
ますますその様子におかしくなって、俺は声をあげて笑ってしまった。
「ははっ…あんた、思った以上に初心いんだな」
「そっ…それは…」
否定するのか肯定するのか、何か話そうとするもののうまく言葉が出ないらしく、口をぱくぱくさせる姿が、何とも愛らしいと初めてヒトに対して思った。
そんな感情を自分が持てる事にも驚いたが、更にそう思う相手がいる事にも内心驚いた。
まずいな、こりゃあ、あまり関わってはいけない。
そう思った俺は立ち上がって言った。
「近侍の話しは聞いたし、さっき今日はする事が無いと言ったよな。俺は早く出陣してぇから鍛錬してきて良いな?」
俺を見上げる雅はそれまでのおどおどしたような態度から、余裕を含んだ柔らかい笑みを浮かべて俺に言った。