第37章 とある本丸がとある本丸になる前に 〔堀川国広/R18〕
「だからどこかで誰かと、とは思っていたけれど、人間のおとことするのは、後が面倒くさそうで嫌だったしね。だったら私には兄の刀剣男士がいるから、男士の誰かとしようかなって思ってたの」
「…たまたまそれがぼくだったって事か…」
その言葉に雅さんはちょっと肩をすくめた。
「言い方悪いけれど、そんなところかな」
小首を傾げて雅さんは言う。
「うん、今ので薬は抜けたみたい」
「…本当に大丈夫?」
ぼくはおそるおそる聞くけれど、雅さんはにこりと邪気の無い表情を見せた。
「大丈夫、さ、遅くなるとみんなが気にするから戻ろうよ」
襖に近寄り彼女が触れれば結界はすぐ外れた。
部屋の外へ出た雅さんは、くるりとこちらを振り向いて言った。
「堀川くん、この事、誰にも言っちゃ駄目よ?言ったらこの本丸に居られないからね」
目の奥に挑むような光を持ち、ぼくを獲物のように狙う表情を見せる雅さんに、背中をぞくりと粟立たせる。
廊下を先に歩く雅さんの背中を見ながら、ぼくは案外、彼女は今の審神者である主よりある意味頭が切れるのかもしれない、と思う。
雅さんがこの本丸の主になるのはもう少し後の事だけど、ぼくが次に彼女から最高の手入れをされる時、どんな気持ちを抱くのだろう、他の男士ともきっと同じ事をするのだろうし、平常心でいられるのかな、と思わずにはいられなかった。
<終>