第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
次郎の言葉に周囲にいた男士たちは「ほほぅ」と感心する。
「次郎からそんなすごい言葉を聞くとは思わなかったな」
三日月が言うと「あら失礼ね」と次郎が軽口をたたく。
「とにかく膝丸、貴方も今宵は出なさいよ。貴方のおにいさんを祝うわよ」
「のんびりほわほわな兄がしっかり者に変わるよう、応援するぞ」
「…たぶんそれは無理だと思う」
三日月が言って膝丸が口をへの字にして答えると、その言葉に全員が笑う。
「…もう、俺の事だって慰めてよね」
加州も口をとがらせるのを次郎が背中をバンと叩く。
「全くあんたも苦労人ねぇ。いいわよ、あたしがばっちり慰めちゃうから」
「…遠慮しておく…」
次郎に言われて加州はぷいと横を向き、その様子に更にその場の男士は笑ってしまう。
彼等を見る膝丸は内心思う。
『兄者、みんなの前に姿を見せたら、どれだけからかわれるのやら…』
でも膝丸は鬚切の答えはわかっている。
『きっと兄者はにこにこ笑って言うんだろうな、そんなにぼくがうらやましいのかい、って』
結果として膝丸の思う通りの状況が見られる事になる、この幸せな空気の漂う本丸にて、いつの間にか芽生えていたのんびり屋の鬚切の恋は、この本丸の審神者である雅との間でちゃんと実って、審神者の命ある限り仲良く過ごしたという。
<終>