第35章 のんびり屋の恋 〔鬚切/R18〕
加州の言葉に、誤解を解こうとしてくれているのに気付き、審神者は頷く。
「目を開けたら鬚切さんの顔がどアップだったからびっくりしました」
「そりゃ、びっくりものだな」
ははは、と大きな声で笑うのは、すぐ近くで味噌汁の椀を手にしていた和泉守兼定だ。
「しかし清光が気を揉むぜ、主?清光はあんたの一番でありたいんだから、他の男士と同衾する前に清光としてやれよ」
「ちょ…和泉守さん…私も好きで同じ布団にいたわけじゃないんですよ?」
和泉守が反対に誤解を招くような発言をするので、慌てて審神者は意見した。
「あ、でもね、主」
加州が口を出す。
「俺が主の初めてでいたいのは本当だよ?主の初体験は俺にちょうだいね?」
ごく真面目な顔で加州に言われ、途端に顔を真っ赤にする審神者はどもりながら言う。
「ちょ…清光さんまで…そんなの、どうでも、良い、こと、でしょう…!」
「どうでも良くないよ?俺を絶対初めての相手にしてよ?ほら、俺、初期刀だし」
加州はどさくさにまぎれて、審神者の両手をとりぎゅっと握って迫り、審神者は背中をのけぞらせてバランスを崩し、倒れそうになった。
「ちょ、待っ…あっ…!」
「おっとぉ。主、大丈夫かい?」
倒れそうになった審神者を助けたのは、すぐ側で朝餉を摂っていた鬚切で、持っていた箸を瞬時に座卓に置き、その手を伸ばして倒れそうになった審神者の腰を抱き留めたのだ。