第34章 誰も知らぬ過去 〔不知火空抄〕
そんな事を言ったら、立ち上がってぼくの隣に来た和泉守兼定に肩をぽんと叩かれ、ぼくの事を肯定してくれた。
「良いんじゃねぇの。自分が刀本来の仕事をしているところを見られる光景なんて、そうざらに遭遇する事ねぇしな」
続けて堀川国広からも言われる。
「兼さんの言う通りだよ。せっかくただの刀から刀剣男士になったんだし、いろいろなことを知って自分の経験値や知識を増やすのは良い事だよ」
うんうん、と他の男士も頷いている。
日輪刀として打たれ、鬼を斬ってきて、忘れ去られてそのまま朽ちると思っていたら、刀剣男士として顕現された。
あのヒトだけとは違い、今度はたくさんの同じ刀の男士たちと一緒に居る。
そうだね、まだあのヒトを忘れられないけれど、顕現された意味、歴史を変えない理由を、考えていこう。
そう言うと加州清光と大和守安定が目を丸くする。
「何、言ってるの。前の主を忘れる事なんて無いよ。むしろ覚えていて良いんだよ」
「そうだよ、前の主に可愛がってもらったんなら、それは覚えていたほうが、前の主も喜んでくれるよ」
忘れなくて良い、その言葉がぼくの不安な気持ちを落ち着かせてくれる。
炎柱だった煉獄杏寿郎、というヒトの思い出を、ぼくは心に刻みつつ。
新たな任務について、いつか、あのヒトの時代であのヒトがぼくを扱うところを直接見たい。
そんな望みが叶うかわからないけれど…歴史の意味と、ぼくが見付けられて顕現された意味も考えていこう。
<終>