第4章 片恋をいつか 〔薬研藤四郎〕
大将は案外おっちょこちょいなようだ。
粟田口の俺たちに差し入れと称して菓子を持ってきてくれるのは嬉しいが、平たい盆に乗せてるだけだから端から菓子が落ちそうになっている。
「全くしようがねぇ大将だな」
俺は廊下に出て大将に向かって声を掛ける。
「大将、それじゃあ菓子が落ちそうだな。手伝うよ」
「ありがとう、薬研、お願いします」
本人も焦っていたらしい、俺の声掛けにほっとしたような表情をした。
しかし、その瞬間、見事に廊下でつまづいて、菓子が散乱した。
「ああっ、やっちゃった!」
慌てる大将に俺は肩をすくめて仕方ない、と拾うのを手伝う。
菓子は一個ずつ個装されているから落としても問題はなかった。
「大将、平たい盆じゃなく、皿に盛ってくれば良かったじゃないか」
俺が拾いながら言うと、大将はえへへ、と笑った。
「うん、早く持って行こうって思って、適当に目の前にあったお盆を使ったんだ」
「急がば回れっていうんだからさ、急ぐ必要は全くないぜ」
拾った菓子はそのまま手にして、粟田口の部屋へ持って行く。