第19章 貴方を知りたい 〔同田貫正国〕
「えっと…そういうのは…無し、です…」
すると「ははは…」と笑って同田貫さんは、私の顔から手を離した。
「俺は何もいらねぇよ。刀の本分は戦で使われる事だからな。出陣出来れば良い」
まっすぐ前を向く同田貫さんの眼差しは、遠くを見るようだった。
私はその同田貫さんの頬にちゅ、と軽くキスをした。
「…おい…」
「唇は無しですけれど、これくらいなら…」
私は自分の顔が赤くなるのを感じ、そのまま立ち上がり、逃げるようにこれだけ言って同田貫さんの隣から早足で逃げた。
「…全く可愛い事してくれる」
同田貫さんが、私が居なくなってから、キスした頬を軽く撫で、こんな事をつぶやいたのは知らない。
刀は戦で使われてこそ。
実戦で使われてきた同田貫さんだから、この言葉は重い。
どれだけ出陣したのだろう、そして、どれだけ斬ってきたのだろう。
私の知らない同田貫さんの歴史と姿、もっと知りたいと思う心が小さく生まれる。
それがどう育っていくのか、審神者としての愛刀精神や家族愛といったものなのか、それとは違う特別な感情になっていくのか、検討はつかないものの、育ちゆく気持ちに名前をいつか何かしら付ける事になるのだろう、と思う。
同田貫正国という刀がどんな人によって作られ、どんな人に使われ、どんな戦いをしてきたのか…同田貫さんに話しを聞きたい…な…
<終>