第16章 当番 〔燭台切光忠/肥前忠広〕
何故なら彼の刀の持ち主があの幕末に名を残した武市半平太で、肥前くんの刀の持ち主は岡田以蔵であり、岡田以蔵が武市半平太を狂犬のごとくに心酔していたからだ。
ぼくたち男士は、どこで作られたか、や、作った人、そして刀の持ち主に影響されるから、肥前くんが朝尊くんの事を『先生』と呼ぶのは、刀の持ち主の名残だとよくわかる。
ぼくは朝尊くんに向かっても「もちろん」と答える。
「食事当番のほかに、ここでは馬当番、畑当番、そして手合わせといって男士たちの練習台になる当番があるよ。当番以外の人は掃除をしてもらったり、これも当番制だからそのうち二人に回ってくるけど近侍と言って、主の手伝いをその日一日する仕事もあるんだ」
「結構いろいろとあるのですね」
朝尊くんは興味深そうに答え、肥前くんはめんどくさそうな顔をした。
「じゃあそういう事で二人ともよろしく頼むね」
二人ともそれでも了承してくれたので、ぼくは部屋を出て歌仙くんに報告しに行った。
「了承してくれたんだ」
意外そうな顔をする歌仙くんだけれど、嫌がると思っていた肥前くんが素直に受け入れたのが嬉しかったようで、どこから教えようかと今からひとりでそわそわしているのがわかって、ぼくはちょっと笑ってしまった。
「肥前くんの着物に血がついていてね、彼が来た早々捕まえて着物剥がして洗ったんだよね。だからぼくが怖いのかな」
はっと気付いて今度はおろおろし出した歌仙くんに、ぼくは我慢出来なくなってぷはっと笑ってしまった。
「歌仙くん、そこまで心配しなくても大丈夫だと思うよ。彼は何となく伽羅ちゃんに似ているから、構ってあげれば懐いてくれると思う」
ぼくは新しい二人によって、これから本丸はどうなるのかなと楽しみになった。
<終>