第14章 重圧 〔物吉貞宗〕
私の言葉に目をぱちくりさせる物吉は、ぱちぱちと瞬きをした後、私の言葉を理解したらしく驚いた表情でこちらを見る。
「ぼくは幸運を運ぶ理由で呼ばれたのではないというのですか?」
「幸運は自分たちで掴むものだよ。物吉は物吉だから来てもらったの。徳川家康が幸運を運ぶ短刀だって大切にしたのは知ってるけれど、それが理由で来てもらったんじゃないからね。だから幸運を運べているかどうか、そんなの気にしなくて良いよ。物吉がここで楽しくみんなと暮らせていれれば、私はそれが嬉しい」
私が大きく笑うと、ようやく物吉も品の良い笑顔を見せてくれた。
「ぼくがここで楽しく暮らす…」
「そう、そうだよ。楽しく暮らしてくれれば良いよ。あ、勿論出陣の時はがんばってもらわないといけないけどね」
「それは勿論です」
真面目に答える物吉が本当に可愛くてならない。
私は物吉の頭をぽんぽんと軽く撫でると、彼の手を取り一緒に立ち上げる。
「よし、じゃあ、粟田口の子たちと、一緒におやつタイムにしよう」
「はい、おともします」
私の言葉に物吉は笑顔を見せた。
粟田口の部屋へ足を運び、一緒におやつを食べ、彼等と遊ぶ物吉の姿を見ていると、彼の『幸運を運ばなくてはならない』という重圧に押しつぶされてないか、さっきまでそれを心配していたけれど、私の言葉で心が軽くなってくれたなら良いなと思った。
物吉貞宗、貴方は徳川家康には幸運を運ぶかたなかもしれないけれど、この本丸では気にせず楽しく過ごしてね、そう、心から私は彼に思うのだった。
<終>