第14章 重圧 〔物吉貞宗〕
「物吉?どうしたの?」
廊下でぼんやりと外を眺めている物吉貞宗を見掛けて、私は声を掛ける。
「あ、主さん、何でもないです…」
何でもないと言いながらもその表情は冴えない。
私は隣に座っていいか聞いてから座り、端正な物吉の横顔を覗きこんだ。
「なぁんか気になっている事が有るって顔してる」
私が言うと、物吉は苦笑して私のほうへ顔を向けた。
「主さんには誤魔化せませんね」
そして言った。
「ぼくは幸運を運んでくると言われてますが、本当に今も出来ているのでしょうか」
「今も?」
意味がわからず聞き直す。
「はい。ぼくは徳川家康公が出陣する際、ぼくを帯同すると勝てるというので、物吉という名前を付けられ大層良くしていただきました。でも物吉の名前通り、この本丸でぼくは幸運を運んできているのでしょうか?」
ためらう物吉の表情に、言いたい事を理解した私は、しかしながら慰めるのではなく叱った。
「何を言ってるのよ、幸運なんて運んでこなくて良いんだよ。物吉は物吉として、ここに居るだけで良いんだから。貴方が幸運を運ぶから本丸に呼んだ訳じゃない。貴方を貴方として望んだから来てもらったんだからね。そこんとこ間違えないで?」