第2章 愛が香る 〔歌仙兼定/R18〕
「主、伽羅(きゃら)だよ、どうぞ」
ぼくは香炉を回すと、おぼつかない手つきで香炉を取り上げた主が、教えた作法通りに焚いた伽羅を聞く。
「…わぁ…」
小さく主が声をあげたのに気付くが、今はおしゃべりする時じゃあない。
ぼくが無言で主を見ると、はっと気付いた主がちょっと肩をすくめて、後は静かに香を聞いて次に待つ燭台切光忠へ回した。
「刀の主が香道やっていてね」
光忠が軽く言って香炉をくるりと回しながら持ち上げる。
そうだ、刀の時の主はあの伊達政宗なんだっけ。
「だから慣れてるのか」
ぼくが言うと、光忠は軽く頷きながら香を聞いた。
「伽羅って良い香りね」
戻ってきた香炉を扱うぼくの手を見ながら、主が言う。
「ああ、一番だね。主は蘭奢待(らんじゃたい)って聞いた事、有る?」
「らんじゃたい?」
「奈良の正倉院のおたからの香木だよ」
「正倉院…ええと聖武天皇の時代のものだっけ?」