第1章 胸騒ぎ
隆二は、あれから地元の友達にも私を紹介した。
俺の婚約者。って。
みんな、はじめは元カノさんの事が頭にあったから微妙な空気だったけど、そのうちに打ち解けた。
楽しい時間はあっという間にすぎて、そろそろ解散しようかと話していた時にお店に元カノがやってきた。
「ごめん!仕事が遅くなって。あれ?もうみんな帰り?」
一瞬凍りつく一同。
「ゆい。これ、俺の婚約者。名無しって言うんだ。」
私を彼女へ紹介した。
「…。」
しーんと静まった部屋で、沈黙を破ったのは彼女だった。
「そ、そうなんだ!名無しさん、よろしく!」笑顔で手を差し出してきた。私も手を伸ばして握手をした。
気づきたくなかった、彼女の手首の傷に一瞬目を奪われたけど、すぐに笑顔を作った。
「さーー。今日は解散。ゆいは彼氏でも呼んでメシくえよ。」
「えー。もう、白状だなあ。」
「ゆい、男できたのか?ちゃんとしてる奴?」
心配そうな隆二の顔に胸がちくりと痛んだ。
「やだなー。隆なんかより最高の男だよ~。」冗談ぽく笑う彼女。
「そっか、ならよかったー。幸せになれよ。」
「…。言われなくても幸せだよ。」
「そっか。じゃー、みんなまたなーーー!」
私も会釈をして隆二の腕につかまる。
なんだろう?この胸騒ぎ。、、、