第9章 魔女と魔女
男が好む顔
男が好む仕草
男が望む行為
シナリオ通りに誘えば
馬鹿な男は直ぐに寄ってくる。
まぁ、私には必要ないがな。
『ところでベルモット。もう1人はどこだ?』
「分かっているのに質問してくるのはアイリッシュの悪い癖よ」
ベルモットの言う通りだ。
私たちから見て、斜め右方向
壁に寄りかかり腕を組む男。
小洒落た燕尾服を着て、仮面を被り気付かれないようにと視線を動かしつつ
こちらの様子を伺っている。
一瞬、目が合った。
「彼のコードネームはバーボン」
『バーボンとは奇遇だな。私と同じウイスキーじゃないか』
とうとうこの時が来た。
あの日、組織に零がいると知ってから
いつかは来ると思っていた。
「バーボンとは組んだことがあったかしら?」
『いや、初めてだ。なぁ、ベルモット…私の信用も落ちたものだ。たかが殺しに組織の人間を2人も付けられる』
「それは違うわ。あの人は心配なのよ貴女が」
『ふん、いらぬ世話だ』
私はベルモットから離れた。
これは始まりの合図。
騒ついた広い会場
ここにいる仮面をつけた人間の中から
たった1人を探し出し
事故に見せかけて殺す。
ターゲットはロシアの帝王と呼ばれている男
そう簡単にはいかないミッション
と思っていたが…
さすが、帝王様
この作戦
失敗だ。
ベルモットとバーボンは無駄足だったな。
私は足早に2人から距離を置く
2人は知らない。
気付いていない。
先程から
バーボンではない
殺気を帯びた視線が痛い。
私は
完全に囲まれている。
ターゲットは既にこちらの情報を掴んでいるのだ。
下手に動けばすぐに消されるだろう。
しかし
幸いなことに
奴らの狙いが私だ。
面倒だ
そんなに私が欲しいのならくれてやる。
あぁ
あの人はこれを分かっていたのか
まったく…過保護な人間だ。