第8章 魔女と少年
嘘はいけない
なぜ?
それは誰のための嘘なのか
考えた事はないか?
私はただの傍観者。
ライフルスコープを覗きながら
ライとスコッチと呼ばれた男を見張る。
裏切り者2人
FBIと警察庁公安部
『まさか、こんな形での再会になるとはな』
こちらに気付いていない赤井へ届くことのない声をかけた。
唇を詠むと会話が手に取るように分かるが
わざわざ、そんなことをしなくても私には聞こえる。
赤井がスコッチを逃がそうとしているが
どうやら邪魔が入りそうだ。
外階段を駆け上がる足音
組織の人間が察して来たか…
言い訳ならどうにでもなる。
赤井とスコッチ…
いや
赤井と諸伏
この2人をどう生かすか…
赤井はまだ死なせはしない。
これは私の欲でありワガママだ。
そう言えばあの時
ジンからは裏切り者を引きずり出せと言われていた。
今、まさにそれが可能な状況なのにそれをしない。
私は完全にジンを裏切った。
裏切り者は私だ。
自嘲の笑みが溢れる。
だんだんと近付いてくる足音
赤井だけを逃すことは簡単にできるが
一番簡単な方法は
無関係なこの足音の主を消すこと。
確実に人間が死ぬ場所に銃弾を撃ち込むため
標準を合わせる。
たが
引き金は…引けなかった。
『なぜここにっ!』
私の瞳に映ったのは
見覚えのある金髪と褐色の肌
私が殺すことのできない人物。
視える名前は
バーボン
そして
警察庁公安部 降谷零
降谷が赤井たちのいる階に到着する直前で
私の物ではない銃声が響いた。
赤井は降谷に嘘をつく。
守るための嘘。
それを聞いて
降谷が取り乱す。
『すまないな、今はあの時みたいにお前を守ってやれない…零』
事の一部始終を確認し
私はその場を去った。
まさか、アイツまでこの組織にいたとは…
私は珍しく頭を抱え、ため息をつく。
死なせてはならない人物が組織の中に
また1人増えてしまった。
帰路に着く足が少し重く感じた。