第2章 SS
◆ジークフリート 『SIEGFRIED』後
「奴は生きたいと望んだのだ。醜い化け物としてではなく、輝かしいお前の伝説の一部として」
真新しい墓石に花を供えるのは同じ化け物としての情けだろうか。柄でも無い。
そして柄でも無いのがもう一人。
「俺は、間違ってはいなかっただろうか」
最強の竜殺しが見せた束の間の迷い。
「間違いなどあるものか。第一化け物に死に方を選ぶ自由など本来ある筈もないだろう」
「……そうか」
そう言って彼は遠くに臨む修練場へ目をやる。木剣を打ち合う音が僅かに聞こえてくるようだ。
その時なんだかこの男がこのままどこかに消えてしまいそうな、そんな得体の知れない不安に駆られた。
「ジークフリート」
奴は振り返りながら風に乱された前髪を掻き上げる。
「私は、お前をッ……その、誇りに思っている。だからな……」
──何処へも行くな。ここにいろ。
何故そんな言葉が湧いて出るのか、自分自身に戸惑う。
突然の静寂の末、男はついに笑い出す。
「どうした、その続きは教えてくれないのか?」
丘を抜ける柔らかい風のような笑顔だった。
「……ッ、あれだ、その……いい大人なんだから他人から心配されるような行動や戦い方は良い加減控えろ。以上だ」
「まったく、手厳しいな」
ジークフリートはまた笑った。