第1章 物語の少し長い冒頭
それからは、週に一度。いえ、今まで通りといってもいいのかもしれません。
炎司様は姐様を指名し、私も座敷へとあげました。
彼は私の、第二の父親といってもいいほどにいろんな土産を私たちに持ってきました。
砂糖でできた綺麗な飴玉に、南蛮から渡ってきたと言われるふわふわなカステラ。
「焦凍は、焦凍は何をすれば喜ぶ!!」
「いや、私は焦凍様じゃありませんからなんとも……」
「ならばすずめ、お前は何をされれば嬉しい!?」
「えっと、姐様とお昼寝してる時が一番嬉しいです」
「それだ!」
そしてその度に、炎司様から嫁と子供の相談と自慢話が始まるのです。
「夏雄も冬美も真っ直ぐに育ってくれた。燈矢は出て行ってしまってからわからないが……焦凍は軍学校に主席で合格したんだ。あんな子に育てた冷は流石俺の嫁だぁ!!」
「はいはい」
週に一度、私は炎司様が来るのが楽しみになっていました。
聞き飽きた嫁子自慢。
お酒に弱い炎司様は一晩ずっと喚いて、朝になって帰られるのです。
ある、昼のことでした。
遊郭の昼は、外での夜との同義です。
私はふと目が覚めると、隣で寝ていた筈の姐様がいないことに気が付きました。
ええ、愛しい人との、逢瀬です。
「〜〜♪〜♪」
姐様は、見世の若い衆といい仲でした。
誰にも言えない、秘密の関係。
遊郭生まれ育ちの二人が、結ばれることはまずありえません。
それから月日が経ち
今から一月前
姐様の身請けが決まりました。
その日からでしょうか、姐様がおかしくなり始めたのは。
相手は叩き上げの商人で、その人の妾になるのだと聞きました。
「〜〜♪〜♪」
姐様はいつも通り 唄を歌います。
紅い鞠を つきながら。
「ねえすずめ、貴方 好きな人はいた?」