第5章 何が為に
「すずめーーー?」
金の刺繍で刺された すずめという名。
いや、違う。人違いだ。すずめという名なんて、他にもきっといくらでもいる。
わかってんだ。わかってんだが、どうにもその鞠から目が離せねえ。
「にいちゃん!早くしねえと行っちまうよ!」
「あっ、ああ」
慌てて追いかけ、鞠を渡そうとする。
「おい、おい!!」
「ああ?」
担架を運ぶ一人が俺に視線を向けると、俺はその鞠を投げようとしてーーーー投げれなかった。
大工の側に駆け寄り、鞠を握らせようとする。
しかし、大工は少し何か考えると、俺に声をかけた。
「いや、あんちゃん、兄ちゃんもらってやってくれねえか?」
「あ?」
「その鞠があんちゃんとこに落ちたのは、その鞠と縁があったってこった。あんたは鞠に選ばれた。気持ち悪いと思ったら捨ててもいいし、なんかの縁を感じてんなら持ってればいい」
「おうい、重てえからはよいくべやー」
「ほいでー!んだらあんちゃん、あとは頼んだ!」